満15歳以上であれば、誰でも遺言書を作成することができますが、認知症や脳梗塞、精神障害のある人が作成した遺言書は、無効となってしまう可能性があります。
以下では、遺言を有効に作成することのできる能力(遺言能力)について説明します。
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遺言者が遺言事項(遺言の内容)を具体的に決定し、その法律効果を理解・判断するのに必要な能力のことです。
次のような要素が、遺言能力の有無の判断材料となります。
・遺言の内容(内容を、作成当時の遺言者が理解できるものか)
・遺言書作成の経緯
・作成時の状況
・病気(認知症など)の程度、年齢
・遺言者と、遺言によって利益を得る者との関係
・複数の遺言の有無、遺言変更・撤回の動機・事情の有無
など。
認知症の人であっても、遺言書を書くことは可能です。
しかし、事理を弁識する能力を欠く状態に至っていた場合には、遺言書は無効となります。
遺言能力の判断要素としては、主治医のカルテや意見書に書かれた内容、医師の鑑定結果、遺言者の生活状況や病状の推移、公証人とのやりとりの様子、遺言書の内容(複雑な内容なのか、簡単な内容なのか)、などをもとに、遺言書の有効/無効の判断がなされます。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合、後見開始の審判によって、本人に成年後見人が付与されます。
この後見が開始された成年被後見人であっても、次の要件のもとで、遺言書を作成することができます。
・成年被後見人が事理を弁識する能力を回復している時に、遺言書を作成したこと。
・医師2人以上の立会いがあること。
・立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況になかった旨を遺言書に付記して押印すること。
遺言者は公正証書遺言を作成。法定相続人は4人。遺言書が作成された当時、遺言者はパーキンソン病により認知症が進行し、遺言能力がなかったとして争った事例。
⇒
公正証書遺言は無効。
遺言者は、入院時において、恒常的に他人と意思疎通をする能力に欠け、日常生活に必要な判断、行動を自力ですることが著しく困難な状況にあり、本件遺言公正証書を作成した時点においては、遺言事項を具体的に決定し、その効果を理解するのに必要な能力、すなわち遺言能力を有していなかったと推認するのが相当である。
仮に遺言者に遺言能力があったとしても、遺言者の意識の状態が相当程度低下していたことは、前記認定のとおりであり、そのような状態で、公正証書作成に近接した時期に遺言者が直接関与して作成されたのもでない遺言内容を公証人が読み聞かせ、遺言者はこれに対して自らは具体的な遺言内容については一言も言葉を発することなく、ハー、とか、ハイ、とかいう単なる返事の言葉を発したにすぎず、遺言者の真意の確認の方法として確実な方法がとられたと評価することはできない。
新旧2回の公正証書遺言により遺贈がなされた。旧遺言による受遺者である原告は、新遺言は遺言者の遺言能力を欠く状態でなされたものである等と主張して争った事例。
⇒
原告の請求を棄却。
遺言者は、第2遺言作成当時、痴呆が相当高度に進行していたものの、いまだ、他者とのコミュニケーション能力や、自己の置かれた状況を把握する能力を相程度保持しており、また、第2遺言を作成するように思いたった経緯ないし同機には特に短慮の形跡は窺われず、さらに第2遺言の内容は、比較的単純なものであった上、公証人に対して示した意思も明確なものであったことが認められるのであって、これらの事情を総合勘案すると、遺言者は、第2の遺言作成にあたり、遺言をするのに自由十分な意思能力(遺言能力)を有していたと認めるのが相当である。
遺言公正証書による遺言は遺言能力のない状態で作成されたと主張して争った事例。
⇒
遺言公正証書は無効。
遺言者には、平成元年頃からおかしな言動が見られるようになり、本件遺言作成時点以前に、感情失禁、記憶障害、見当識障害、人物誤認、被害妄想、脱衣行為等の言動が見られた。したがって、本件遺言書作成当時、痴呆は中等度であったが重度に近いものであって、本件遺言の内容を理解し判断する能力、すなわち遺言能力はなかったものと認めるのが相当である。
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