相続判例全文4-通知処分取消請求(東京高裁平成26年10月30日)

判例
(最高裁判所 裁判例情報より)

事件番号:平成26(行コ)99
事件名:更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成24年(行ウ)第854号)
裁判年月日:平成26年10月30日
裁判所名:東京高等裁判所

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 渋谷税務署長が控訴人に対し平成23年5月31日付けでした控訴人の平成16年11月13日相続開始の相続税に係る更正の請求に対して更正をすべき 理由がない旨の通知処分のうち,課税価格50億6930万8000円,納付すべき税額24億3103万3200円を超える部分を取り消す。
3 訴訟費用は,第1審,第2審を通じて被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

本件は,控訴人が父である被相続人A(平成16年11月13日死亡。以下「亡A 」という。)の相続に際し,その相続財産にB株式会社(以下「B」という。)の株式(以下「本件株式」という。)が含まれており,その価額が1株当たり1083円であることを前提とした内容の相続税の申告をしたが,その後,控訴人と株式会社C(以下「C」という。)等との間で本件株式の譲渡をめぐって争われた訴訟において言い渡された判決(以下「別訴判決」という。)により,亡Aの相続財産に含まれていたのは本件株式ではなく本件株式を1株当たり642円でCに譲渡したことによる売買代金請求権であったことが確定したなどとして,別訴判決が国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)23条2項1号の「判決」に当たるとして同号に基づき,平成23年1月18日付けで更正すべき請求(以下「本件更正請求」という。)をしたところ,同年5月31日付けで渋谷税務署長から更正をすべき理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)を受けたため,その取消しを求めた事案である。
原審は,本件更正請求は,通則法23条1項所定の更正の請求の期間経過後にされたものであり,別訴判決は同条2項1号の「判決」に当たらず,同号所定の要件を満たして適法なものということもできないから,本件更正請求について更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法なものというべきであるとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これを不服として控訴した。
2 関連法令等の定め及び前提事実
関連法令等の定め及び前提事実は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1及び2(原判決2頁17行目から8頁26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,同各項で定める略称等は,以下においても用いることがある。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
争点及びこれに関する当事者の主張は,後記第3の4に当審における控訴人の主張を摘示するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」 の3及び4(原判決9頁1行目から16頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

第3 当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。

通則法23条2項1号は,「その申告(中略)に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」について,申告者その他の関係者がこれと異なる事実である旨を確認したり,合意をしてその内容がその申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実をもたらすことになったりした場合に,それだけでは更正の請求をすることはできないが,判決等によりその申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実が確定され,判決等に基づく法律関係が構築され,経済,社会生活上も当該法律関係を前提とすることになる場合には,同項に基づく更正の請求をすることができる旨を定めている。同号の文言及び趣旨に鑑みれば,「判決により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは,その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が判決の主文で確定されたとき又はこれと同視できるような場合をいうものと解するのが相当である。
前記引用に係る原判決の前提事実によれば,本件相続人らが本件遺産分割協議書を作成して行った遺産分割協議は,被相続人である亡Aの遺産に本件株式154万6668株が含まれることを前提としており,このことが本件申告に係る課税標準等の計算の基礎となった事実(通則法23条2項1号にいう「その申告(中略)に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」)であることが認められる。これによれば,同号所定の「その申告(中略)に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(中略)により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当するというためには,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有していたことその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったことを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合(例えば,亡Aの相続開始以前から第三者が引き続き本件株式を有していることを認定しこれを理由とする第三者が本件株式を有することの確認判決,亡Aが相続開始前に有していた本件株式を譲渡したことを理由とする譲渡の相手方に対する譲渡代金の支払を命ずる判決等)に該当することを要するものと解するのが相当である。
しかるに,前記前提事実によれば,別訴の請求は本件相続開始後にされた本件株式の本件各譲渡契約に関する虚偽の説明を理由とする不法行為による損害 賠償請求(主位的請求)及び同契約の錯誤無効を理由とする財産評価基本通達に従って算出された評価額と同契約の売買代金との差額相当額の不当利得返還請求(予備的請求)であり,別訴判決の主文はこれらの請求をいずれも棄却するというものであって,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有していたこ とその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったことを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合に該当しない。
したがって,控訴人の請求は理由がない。

補充的に原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1から4まで(原判決16頁10行目から25頁7行目まで)の記載を,次のとおり補正の上引用する。
(1) 原判決16頁17行目から末行までを削除する。
(2) 同19頁25行目の「いうことはできない。」を次のとおり改める。 「いうことはできないのみならず,別訴判決の主文はこれらの請求をいずれも棄却するというものであって,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有していたことその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったことを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合に該当しない。」
(3) 同頁末行から同20頁18行目までを削除する。
(4) 同21頁17行目の「いうことはできない。」を次のとおり改める。「いうことはできないのみならず,別訴判決の主文はこれらの請求をいずれも棄却するというものであって,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有していたことその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったことを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合に該当しない。」
(5) 同頁18行目から同22頁12行目までを削除する。
(6) 同頁13行目の「本件株式」から17行目の「すなわち,」までを削除する。
(7) 同頁21行目から同23頁19行目までを削除する。
4 控訴人の当審における主張に対する判断
(1) 控訴人は,通則法23条2項1号が規定する「判決」に当たるか否かは,本件の課税関係に及ぼす「実体や実質」が重視されなければならず,別訴判 決は亡Aの生前に本件株式が既に売買あるいは売買予約されていたかといった「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎とな った事実」を直接訴訟物としていなくても,亡AとCとの間で本件株式を1株当たり642円で譲渡する旨の合意があったと認定するものであり,そうである以上,その合意の法的構成にかかわらず控訴人は当該合意に拘束され,本件株式を1株当たり642円によって譲渡すべき債務を負ったことに争いの余地はなくなったのであり,控訴人が本件株式を相続したことによって得た経済的利得は1株当たり642円であることが確定されたものにほかならず,これに基づいて課税価格を計算すると相続税額を過大納付したことが確定したことになるから,別訴判決が通則法23条2項1号が規定する「判決」に当たると解することが,「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」を直接審理の対象としていない青色申告承認の取消処分の取消判決についても同号の「判決」に該当すると判断した昭和57年最高裁判決(最高裁昭和51年(行ツ)第98号同57年2月23日第三小法廷判決・民集36巻2号215頁)の趣旨にも沿う,などと主張する。
(2) また,控訴人は次のとおり主張する。すなわち,相続税申告の際には財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17による国税庁長官通達。ただし,平成17年5月17日付け課評2-5による改正前のもの。以下「評価通達」という。)の定めに従って本件株式1株当たり1083円と算出したが,評価通達1項(2)には,「財産の価額は時価によるものとし,時価とは課税時期(略)において,それぞれの財産の状況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をい」うと定め,(3)において,「財産の評価」と題し,「財産の評価に当たっては,その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する。」と定め,6項で「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めている。これに照らすと,控訴人は,別訴判決により,本件株式1株当たり642円で譲渡する債務を負っていたことを法的に覆せなくなったのであるから,「財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮」した場合には,「その財産の状況に応じ,・・通常成立すると認められる価額」は1株642円以外あり得ないことになり,評価通達上原則として1株1083円で評価されるとしても,同通達6項に従い国税庁長官が本件株式の価額を642円として評価することを指示せざるをえなくなるのであって,評価通達の一部のみを適用して1083円とすることは不当となる。そうすると,別訴判決が亡Aの生前における本件株式の売買契約の成立や売買予約があったことを否定したとしても,本件判決によって本件株式の価額が1株当たり642円であったことが確定したことは変わりなく,通則法23条2項1号の「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」に直接関係することになるから,別訴判決は同号の「判決」に該当する。以上のように主張する。
(3) しかしながら,控訴人の上記各主張に対する判断は,前記2において説示したとおりである。控訴人の上記各主張はいずれも採用することができない。
(4) なお,控訴人は,当審口頭弁論終結後の平成26年8月29日に同月28日付け控訴人準備書面を提出し,別訴判決が通則法23条2項1号の「判決」に当たる旨更に主張を補充するので,当裁判所は,改めて検討したが,その結果,上記認定判断の変更を来すものではないと判断し,終結した口頭弁論の再開を命じないこととした。

第4 結論
よって,上記判断と同旨の原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

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