相続判例全文8-相続税更正処分等取消請求(東京高裁平成26年9月11日)

判例
(最高裁判所 裁判例情報より)

事件番号:平成26(行コ)10
事件名:相続税更正処分等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成24年(行ウ)第339号)
裁判年月日:平成26年9月11日
裁判所名:東京高等裁判所

主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要等
1 事案の概要
相続税法(平成22年法律第6号による改正前のものをいい,以下,特に断らない限り同様である。)は,相続税の課税財産として定期金に関する権利を評価する場合の評価について,対象を権利の取得時に給付事由が発生しているものと発生していないものとに分けた上(24条,25条),前者のうち有期定期金の価額を,残存期間に応じその間に受けるべき給付金額の総額に一定の割合を乗じて計算した金額と定めていた(24条1項1号)。
本件は,被控訴人が,平成19年3月29日に死亡したAの相続(以下「本件相続」といい,上記の日を「本件時点」,被相続人を「A」という。)に係る相続税の申告において,Aが加入し,年金支払特約が付加された生命保険(変額個人年金保険)に係る死亡給付金支払請求権(以下「本件受給権」という。)の価額を,相続税法24条1項1号に従い,有期定期金の残存期間に受けるべき給付金額の総額に所定の割合である100分の20を乗じて評価し,申告をしたところ,処分行政庁が,本件受給権には上記規定の適用はないものとして,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,それぞれ「本件更正処分」,「本件賦課決定処分」といい,併せて「本件各処分」という。)をしたことから,被控訴人が本件各処分の取消しを求めた事案である。
原審は,本件受給権に相続税法24条1項1号の適用があるものと判断してその価額を認定した上,本件更正処分のうち課税価格9億3659万8000円及び納付すべき税額3億4045万3300円を超える部分並びに本件賦課決定処分を違法として取り消したことから,控訴人が本件控訴を提起した。
2 争点及び当事者の主張
(1)関係法令の定め,前提事実,控訴人の主張する本件各処分の適法性及びその価額の内訳並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,前提事実を後記(2)のとおり補正し,控訴人の当審における主張を後記(3)のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2から5までに記載されたとおりであるから,これを引用する。
(2)前提事実に係る補正
ア 原判決3頁24行目の「本件保険契約」を「保険契約」と改め,同4頁2行目の「本件保険契約」を「以下「本件保険契約」という。」に改める。
イ 原判決3頁25行目の「補助参加人」を「被控訴人補助参加人」と改め,同26行目の「カンパニー」の後に「。以下「補助参加人」という。」を加える。
ウ 原判決8頁16行目の「提出した」の後に「(以下,相続税の申告書を提出してした申告並びに平成21年12月3日及び同月11日に修正申告書を提出してした各修正申告をまとめて「本件申告」といい,その内容は上記各修正申告をした後のものを指す。)」を加える。
(3)控訴人の当審における主張
相続税の納税義務が相続による財産の取得の時に成立し(国税通則法15条2項4号),財産の価額はその取得の時における時価によるとされている(相続税法22条)ことからすれば,相続により取得した財産を評価する場合に当該財産の取得後の事情を考慮することは許されず,したがって,本件受給権に相続税法24条1項各号を適用することはできない。

第3 当裁判所の判断

当裁判所も,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。
その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に記載されたとおりであるから,これを引用する。

重複をいとわず,当裁判所が上記判断をするに至った理路につき,控訴人の当審における主張に対する判断も併せて示せば,次のとおりである。
(1) 本件受給権は,生命保険である変額個人年金保険に係る死亡給付金支払請求権であるから,相続税法3条1項1号の「生命保険契約の保険金」に当たり,被相続人であるAの負担においてその死亡の時までに保険料の全額が払い込まれているから,被控訴人が本件受給権の全部を相続により取得したものとみなされる(みなし相続財産)。
(2)相続により取得した財産の価額は,「この章で特別の定めのあるものを除くほか」,当該財産の取得の時における時価により評価される(相続税法22条)ところ,同法24条1項は,「定期金給付契約で当該契約に関する権利を取得した時において定期金給付事由が発生しているものに関する権利」の価額は,同項各号に掲げる金額によることとし,そのうち有期定期金の価額については,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき給付金額の総額に所定の割合を乗じて計算した金額としている(1号)。相続税法24条1項柱書きにいう「定期金給付契約..に関する権利」とは,契約によりある期間定期的に金銭その他の給付を受けることを目的とする債権をいい,毎期に受ける支分債権ではなく,基本債権をいうものと解される(相続税法基本通達24-1参照)。
本件においては,Aと補助参加人との間で本件特約の付された本件保険契約が締結され,本件特約において本件死亡給付金の受取人に指定されていた被控訴人が,本件特約の定める本件死亡給付金の支払事由の発生(Aの死亡)により,年金払いとされる本件死亡給付金の請求権(本件受給権)を取得したものと認められるから,本件受給権は,「定期金給付契約..に関する権利」に当たり,かつ,「当該契約に係る権利を取得した時において定期金給付事由が発生している」という要件にも該当する。
そうすると,本件受給権の価額は,被控訴人の指定により確定した年金受取方法を基礎として相続税法24条1項所定の評価方法に基づいて算定されることになるべきところ,被控訴人の指定により,本件受給権は,残存期間が36年の有期定期金を内容とするものとして確定しているから,その価額は,被控訴人が受け取るべき死亡給付金の総額6120万8532円に100分の20を乗じた1224万1706円となる。
(3)控訴人は,相続税法24条1項が,将来に向けて受領する定期金の相続開始の時における現在価値を算出するための規定であると解した上,同規定が想定する有期定期金とは,その残存期間,1年間に受けるべき金額及び残存期間に受けるべき給付金額の総額が権利の取得の時点において定まっているものに限られることから,同項柱書きにいう「定期金給付契約」とは,少なくとも,年金の種類等が定まった定期金給付契約のみをいい,これらの内容が定まっていないものは「定期金給付契約」に当たらないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,租税実務上,同法24条1項柱書きに規定する「定期金給付契約..に関する権利」が,契約によりある期間定期的に金銭その他の給付を受けることを目的とする債権をいうものと解釈されていることに照らせば,「定期金給付契約」も,当事者間においてある期間定期的に金銭その他の給付が授受されることを内容とする契約をいうものと解するのが相当である。控訴人の上記主張は採用することができない。
また,相続税法24条1項の定める評価方法は,退職手当金等(同法3条1項2号)が年金の方法で支給される場合にも適用されるところ,被相続人の相続開始の時には何ら具体的な権利が定まっていなかったが,相続開始の後に被相続人が勤務していた会社の株主総会等において同人に対する退職慰労金支給決議がされ,この退職慰労金が年金の方法で支給された場合にも,他と同様の扱いがされていた(丙8)ことからすれば,相続開始の時において年金の種類等の権利の内容が定まっていないとの事実をもって,「当該契約に係る権利を取得した時において定期金給付事由が発生している」という要件を充足しないと解釈することも相当でないというべきである。
(4)控訴人は,財産の評価をする際に当該財産の取得の後の事情を考慮することは許されない旨主張し,その根拠として,相続税の納税義務が相続による財産の取得の時に成立し(国税通則法15条2項4号),財産の評価が時価主義により行われる(相続税法22条)とされていることを指摘する。控訴人が本件受給権の幾つかの特徴を指摘して「権利を取得した時において定期金給付事由が発生している」という要件の充足を争い,あるいは,相続開始の後にされた被控訴人の指定行為によって年金の種類等が確定したものと認定すべきであるから相続税法24条1項各号を適用する前提を欠く旨主張するのも,財産の評価をする際に考慮し得る事情の範囲に関する上記の主張に由来するものと理解できる。
そこで検討するに,相続が死亡によって開始する(民法882条)ことからすれば,一般に,被相続人の死亡時に相続税の課税要件が充足され納税義務が成立するということができるが,個別の事案において,課税物件としての相続財産の範囲にいかなる財産が含まれるかは,当該事案における私法上の法律関係によって検討されるべき事柄である。保険金の受給権は,被相続人が相続開始の時に有していた財産でないにもかかわらず,相続税法上は相続財産(みなし相続財産)と扱われるが,受給権の発生時期,内容及び確定時期は,当事者の締結した保険契約に基づいて定まり,これを前提にして相続税の課税物件とされることから,その性質上,相続開始の時に権利の内容が確定しているとは限らないものである。また,財産の評価について時価主義が採用されているからといって,そのことの故にある財産が相続財産の範囲に含まれるか否かを私法上の法律関係によって検討する際に考慮し得る事情の範囲が制約を受けると解すべき根拠は見当たらない。控訴人の上記主張は採用することができない。
(5)控訴人は,本件受給権に相続法24条1項1号の定める評価方法を適用することは不適当である旨主張し,その根拠として,保険金等受取人が,死亡給付金を一時金又は年金のいずれの方法により受け取るかを被保険者の死亡後に選択することができる点や,本件特約を将来に向かって解約することにより一時に死亡給付金の支払を受けるのと同様の結果を実現することができる点を指摘する。
しかしながら,本件特約には,死亡給付金の支払事由発生後に保険金等受取人が一時金か年金かを決めることができる旨の約定があるわけではないし,本件特約を解約することにより一時に死亡給付金の支払を受けるのと同様の結果を実現する事態が生ずるとしても,そのような事態を防ぐための法律上の定めもないのであるから,これらの点を問題視する控訴人の上記主張はいずれも当を得ない。
この点に関連して付言すれば,本件でその適用の有無が問題となっている評価方法については,規定が設けられた昭和25年以来今日までに,金利水準の低下や平均寿命の伸長により,評価額が実際の受取金額の現在価値に比べ非常に低いものとなることが指摘されるなどしていたため,平成22年法律第6号による改正により,次のとおり,改められた。すなわち,有期定期金の額は,(イ)当該契約に関する権利を取得した時において当該契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額,(ロ)定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には,当該契約に関する権利を取得した時において当該一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき当該一時金の金額,(ハ)当該契約に関する権利を取得した時における当該契約に基づき定期金の給付を受けるべき残りの期間に応じ,当該契約に基づき給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額に,財務省令で定める当該契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額,の3つの金額のうちいずれか多い金額とされたのである。(乙10)上記改正後の規定は,控訴人の上記主張に係る問題意識を取り入れたものと解されるが,平成23年4月1日から施行されるものであり,仮に,本件において控訴人の上記主張を採用し,本件受給権に相続税法24条1項1号の評価方法を適用しないこととなれば,事後の立法措置の内容を,法律の根拠なく,遡及的かつ納税者に不利益に適用することとなり,その点からしても妥当でないというべきである。
3 小括
以上によれば,本件受給権の価額は1224万1706円であり,本件相続における課税価格及び納付すべき税額は,それぞれ9億3659万8000円,3億045万3300円(本件申告に係るそれらと同額)であるから,本件更正処分はこれらを超えない範囲では適法であるが,これらを超える部分については違法であるから取り消されるべきであり,本件申告に係る税額を超えて被控訴人が新たに納付すべき税額は存在しないから,本件賦課決定処分は違法であり,取り消されるべきであって,これと同旨の原判決は相当である。

第4 結論
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

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